桜にまつわる伝統芸能
歌舞伎 能 落語  

桜は「無常」の象徴
▼熊野(ゆや)
ストーリー
 平宗盛に仕える遊女、熊野御前のところに、病身の老母から一目会いたいと手紙が届く。熊野は宗盛に手紙のことを申し出て帰郷を願うが、宗盛は許してくれない。それどころか宗盛は熊野に清水寺への花見に一緒に出かけるよう命じる。熊野は美しい桜を見ても浮かれる人々を見ても、病気の母親のことが気になって仕方がない。熊野は母を思う気持ちを和歌に託し、その思いが宗盛に通じ、やっと帰郷を許される。
桜のみどころ
 京都の春を華やかに彩る桜。だがこの場合、桜は単に美しい桜というだけではない。「いかんせん都の春も惜しけれど馴れしあづまの花のちるやん」。重病の母親を思いながら見る桜は「無常」「悲しみ」の象徴となっている。

美しいだけでなく妖艶
▼田村(たむら)
ストーリー
 三月中旬、清水寺。旅の僧が桜の盛りに見とれていると、童子が現れ、春の都の美しい風景を教える。童子は田村堂付近で突然姿を消し、しばらくすると坂上田村麿が武将姿で現れる。
桜のみどころ
 童子が桜の美しさを語る、いわゆる「名所教え」。「音羽の山の峯よりも、出でたる月の輝きて、この地主の桜に映る景色・・」。桜は、単なる美しい風景の描写だけでなく、妖しい精霊が登場するための前触れとなっている。

西行の歌に精霊が反論
▼西行桜(さいぎょうざくら)
ストーリー
 京の春、大勢の人が花見にやってくる。西行は桜のために閑居の邪魔をされることを嘆き、「花見んと群れつつ人の来るのみぞ、あたら桜の咎にはありける」と歌を詠む。西行が桜の木陰で寝ていると、桜の精が現れ「どうして桜に咎があるものか」と反論する。
桜のみどころ
 桜の木に宿った精霊が登場。「見渡せば柳桜をこきまぜて 都は春の錦 燦爛たり」で始まり、謡で次々と桜の名所を並べる。桜の華やかさとは程遠い老人だけに、かえって幻想が広がる。

「精霊が宿る」桜の木
▼鞍馬天狗(くらまてんぐ)
ストーリー
 鞍馬の東谷で桜が満開になり、源平の両家の稚児たちを引率して僧が花見にやってくる。そこへ怪しい山伏が闖入してくる。実はこの客僧は鞍馬の大天狗の化身で、牛若に兵法を授けるためにやってきたのだった。
桜のみどころ
 桜の花盛りに鞍馬の大天狗の化身が現れる。桜を「精霊が宿る木」とみなしているからこその設定である。

吉野の桜に魅せられた天人
▼吉野天人(よしのてんにん)
ストーリー
 都の人が吉野の花見に訪れる。一人の女が現れ、辺りの美しい景色に興じる。不審に思った都の人が声をかけると、女は天人であることを明かし、昔の「五節の舞」を見せることを約束して去る。その夜、満開の桜にひかれ、たくさんの天人が出現する。
桜のみどころ
 天女が桜の花に引かれて降ってくる。桜が単に美しいからではなく、霊力があるからである。さくらは、「さ」という田の神の「くら」、つまりおましどころという意味を持った樹木。だからこそ超自然的な霊が引き寄せられる。

満開の桜の下に何かが宿る
▼志賀(しが)
ストーリー
 京都から琵琶湖畔へ抜ける山越えの街道に満開の山桜が咲いている。官人がこの山桜を見に行くと、花陰で休む老翁に会う。そこからちょっと入ったところに大伴黒主の宮があり、老翁は「黒主と言われたもの」と名乗る。
桜のみどころ
 満開の桜の木の下で大伴黒主の化身が登場する。