桜にまつわる伝統芸能
歌舞伎 能 落語  

桜を象徴化した作品、舞台で桜が重要なポイントとなる作品をピックアップしてみました。


桜を象徴とした「ほろびの美」
▼菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
ストーリー
 梅王丸、松王丸、桜丸という三つ子の兄弟が登場。三人の兄弟の父、四郎九郎の家の庭には、兄弟になぞらえた梅松桜の木がある。祝い事で集まった際、兄弟喧嘩をしたはずみで桜の枝が折れてしまう。その後桜丸は、自分が斉世親王と苅屋姫の恋を取り持ったことで大事件が起こった責任を一身に背負い、切腹してしまう。
桜のみどころ
 日本人の美意識「ほろびの美」について、桜を象徴とした作品。咲いている期間が短く、潔く一気に散ってしまう桜。作品中、梅・松・桜の3兄弟のうち、死ぬのは桜丸だけというところが興味深い。

桜と雪とが一対に
▼関の扉(せきのと)
ストーリー
 雪の降る逢坂山の新関。天下を狙う大伴黒主が逢坂山の関守となって忍んでいる。そこに移された先帝遺愛の桜は、先帝崩御を悲しむあまり薄墨色に咲いたが、小野小町の歌で色を増したことから小町桜とも墨染桜とも言われる。ある日小野小町は関を訪れ、菩提を葬っていた恋仲の宗貞(後の僧正遍昭)と出会う。宗貞は関守の素性が怪しいことを小町に告げる。やがて桜の精が遊女黒染となって現れ、黒主の陰謀を暴露する。
桜のみどころ
 雪の中に咲く桜の印象が強烈。桜も雪も、共に消えていくものの代表。歌舞伎ではこの桜と雪を一対として扱うことがよくある。

降り注ぐ桜の花びらが圧巻
▼金閣寺(きんかくじ)
ストーリー
 権力者の松永弾正は、金閣寺に将軍の母を閉じ込め、一方、横恋慕した狩野之助直信の妻、雪姫を口説いている。弾正は、自分に従わなければ雪姫の恋人の狩野直信の命はないとおどす。雪舟の孫、雪村の娘である雪姫はある日、自分の父を殺したのが弾正であることを知り、「父の敵」と叫んだことから桜の木に縛り付けられてしまう。絶体絶命の雪姫は、雪舟の故事にならって爪先で桜の花びらを集め鼠を描くと、生きた鼠に変わって縄を食いきって姫を助ける。
桜のみどころ
 花か雪かと身間違うほど美しい姫。その姫が苦しむ中で、桜の花びらが姫の姿をかき消すほど降り注ぐ。金閣寺を背景にした構図が美しい。爪先で描いた鼠が消えるとき、仕掛けでパッと割れて中から桜の花びらが出る。

「散る桜」が切なさを表現
▼一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)
ストーリー
 宿場女郎のお蔦はある日、親方からも見放され失意のまま巡業先から江戸へ帰る取的・駒形茂兵衛に、自分の櫛、簪などを与える。十年後、茂兵衛は身を持ち崩し一本刀の旅烏に、お蔦は辰三郎との間に子をもうけ、あめ売りとして暮らしている。ところが辰三郎は賭場での諍いから地元のヤクザに脅され、追い詰められる。そこへ茂兵衛が現れ、ヤクザを叩きふせて難儀を救う。
桜のみどころ
 お蔦は去る直前に茂兵衛のことを思い出す。「これが姐さん見てもらう、しがねえ姿の横綱の土俵入りでござんす」。見送る茂兵衛の肩に、桜がはらはらと散りそそぐ。やっと恩を返すことができた安堵、お蔦への淡い恋慕をたちきるせつなさを散る桜が表現している。

華やかさ盛りたてる「桜の釣り枝」
▼白浪五人男(しらなみごにんおとこ)
ストーリー
 鎌倉の呉服屋に、美しい娘が若党を連れて買い物に来る。その娘が万引をしたと思った番頭は、娘の額に傷をつけてしまう。そこへ玉島逸当という侍が現れ、娘は男だと見破る。娘は実は弁天小僧。呉服屋から信用を得た逸当だが、この侍こそが弁天小僧の親分、大盗賊駄 右衛門であり、駄衛門は浜松屋の有り金を奪おうとする。ところが偶然、弁天小僧こそ浜松屋の息子で、浜松屋の宗之助は駄右衛門の息子と分かる。稲瀬川で勢ぞろいした五人男は捕手を追い散らすが、結局弁天小僧は自殺、駄右衛門は藤綱に捕らえられる。
桜のみどころ
 歌舞伎には「桜の釣り枝」という飾りがあり、舞台の最前部の上から桜の造花を横一線に何本も釣り下げ、華やかな雰囲気を盛り立てる。蛇の目傘は、散りかかる吹雪の中に立つ二枚目役者のシンボル。

「千本桜」は吉野桜の象徴?
▼義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
ストーリー
 全五段構成。平家を滅ぼして都に凱旋した義経だったが、平知盛、維盛、教経の首が偽物だったこと、さらに後白河法皇から「頼朝を打つ」という意味が秘められた「初音の鼓」を賜ったことから、兄頼朝から追われる立場となった。都落ちした義経は、流れ流れて吉野の山に身を隠す。義経の愛妾、静御前が義経を思い旅に出る。「初音の鼓」をならすと、義経の忠臣・忠信が現れ、一緒に旅をすることになる。その後、吉野で再会する義経と静御前。だが忠信はすでに義経のもとにいた。静御前に付き添っていた忠信は実は狐で、「初音の鼓」は自分の親なのだという。親を慕う子狐の気持ちにうたれ、義経は狐に鼓を与える。狐はお礼に夜討ちを企てた悪党を館に引き入れ、狐の神通力で凝らしめる。
桜のみどころ
 タイトルに桜が登場する演目だが、桜はあまり舞台上には出てこない。千本桜とは実は千本の「卒塔婆」で、それと吉野の桜を象徴的に結びつけたという説もある。

満開の桜の木の下で
▼京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
ストーリー
 桜が満開の道成寺の鐘供養の日、白拍子花子という美しい一人の娘が現れる。鐘をおがませてくれとの申し出に対し、坊主が舞いを所望する。花子は烏帽子をつけて舞ったあと、これまでの恋について語り、隙を見て鐘の中に飛び込む。鐘を引き上げて見ると恐ろしい蛇体が現れる。娘はかつて鐘の中へ隠れた男を恨んで蛇体になり、鐘ごと焼殺した清姫の亡霊だった。
桜のみどころ
 満開の桜の下で、美しい女が娘の恋を語る。

天井から下がる華やかな桜
▼助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)
ストーリー
 舞台は江戸の遊郭、吉原。客の一人の助六と遊女の揚巻は深く契った仲だ。助六は、源氏の宝刀・友切丸を手に入れるため、揚巻を思う意休と戦う。夜がふけるのを待って意休を殺し、友切丸を奪った助六は、揚巻の助けで吉原の騒ぎを逃れる。
桜のみどころ
 歌舞伎十八番の一つ。昔は「助六」が上演されると、劇場の周りに桜を何百本も植え、街全体がお祭り騒ぎになったという。今日ではそんなことはなくなったが、「助六」が上演される劇場は今でも華やかな雰囲気。舞台が照明でパッと明るくなった瞬間、天井から垂れ下がる桜の花が印象的だ。

落語