【元富山大教授 長井真隆】

4ヶ月間自然を彩る


 黒部市は温暖な気候と降水量に恵まれ、季節の表情はすこぶる豊かなところである。背後には3,000m級の立山連邦がそびえ、そのため高度的にも多様な植物相が見られる。黒部市はコンパクトな市であるが、自然はまさに上下に広がる空間と、巡り来る季節と、豊富な水とが織りなす多次元で多様な世界がある。

 こうした自然を彩るものの一つが、黒部に自生する野生の桜である。野生の桜は7種知られており、3月下旬から7月まで約4ヶ月にわたり黒部を彩 る。これらは海岸から亜高山にかけて分布しており、開花順に列挙すると次のようになる。オクチョウジザクラ(3月下旬‐4月上旬)、エドヒガン、ヤマザクラ(またウスゲヤマザクラ)、オオヤマザクラ(4月中下旬)、カスミザクラ(4月下旬‐5月上旬)、ウワミズザクラ(4月下旬‐6月上旬)、タカネザクラ(5月下旬‐7月)。


海岸から山地帯まで


 植生帯別に見ると、低山帯にはヤマザクラまたその品種のウスゲヤマザクラとエドヒガンが自生している。ヤマザクラは東布施の別 所にも見られるが、海岸近くの石田立野に成木7株が温存している。この地は以前、クリ・コナラ・アカマツ・サクラ等の二次林であったが、後に海岸道路設置に際し、ヤマザクラを残して伐採・整地して現在に至っている。また、ヤマザクラは屋敷林の中にも自然侵入が見られる。このことは沿岸部や平野部は、ヤマザクラの潜在的な生育域であることを示している。なおヤマザクラは、南方系の桜で日本海側は新潟県まで分布している。エドヒガンは、低山帯から山地帯下部に生育し、宮野山の河岸段丘崖や、東布施の中陣や別 所から嘉例沢・福平方面に多く見られる。

 低山帯から山地帯下部にオクチョウジザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラが分布している。オクチョウジザクラは新川牧場から嘉例沢・福平方面 に多く見られる。このオクチョウジザクラは、日本海側の積雪適応種で背丈が低く、幹や枝がよくねばる。主に秋田県から富山県東部に分布し、福井県の一部にも見られる。

 ウワミズザクラは低山帯から山地帯に広く分布し、花は白色でブラシ状につくので遠くからでも確認できる。オオヤマザクラは北方系で、別 名をエゾヤマザクラといい、北海道から本州、四国に分布している。カスミザクラも同様に北海道から本州、四国に分布している。

 亜高山帯にはタカネザクラが生息している。


コラーレのシダレザクラは寿命数百年


 以上、桜の野生種の分布状況は、その土地における桜の潜在的な適性を示しており、「桜一万本運動」の樹種選定の拠所になるものである。

 なお、友好都市根室から贈られてきたチシマザクラは、タカネザクラの変種である。また、天神社の馬場の桜、コラーレと黒瀬川桜堤のシダレザクラは、エドヒガンの品種で、イトザクラの別 名がある。エドヒガンは寿命が数百年以上といわれているが、エドヒガンとオオシマザクラの雑種であるソメイヨシノは、寿命が短く70‐80年程度が普通 である。