エッセイ私と桜
 

腕白を満足させた山桜

 

JR東日本フードビジネス監査役

石出 宗秀

総理府次長、賞勲局長を務められた石出さんは、故郷富山を離れられて40年になります。「富山に桜の名所がもう一つ生まれつつあることは、同慶の至り」と話されます。写真は、新宿御苑の八重桜の下で。
 毎年春風とともにやってくる桜便りは、幼年の頃はもちろん、還暦を過ぎた今になっても待ち遠しく楽しみなものであるが、桜にまつわる幼い頃の思い出を綴ってみた。

花も実も好ましい山桜
 私の出生地は富山県氷見市の山間部であるが、その地の雑木林には何本もの山桜も混じっており、私の生家の庭にも2本の山桜があった。山桜にもいろんな種類があるようであり、これらがなんと言う山桜か分からないが、花はわりと小型の一種で、純白であった。
 他の木々の緑に先駆けて咲き、枝の先の先まで埋め尽くすその清楚な姿は、子供心にも大変美しく、また、春の到来を告げる嬉しい証であった。
 さらに、これらの桜はその実によっても子供たちを喜ばせてくれた。初夏に熟すその実は、今ごろのサクランボに比べればうんと小さく、黒っぽい紫色をしていたが、その味は、佐藤錦にも匹敵するほどの美味しさだったような気がする。腕白仲間とともに口の周りを黒紫色に染めながら、その実を競って食べたことも楽しい思い出である。
 長い間あの山桜達をみていないが、私が通う関東地方のゴルフ場周辺の山々にも山桜は自生しており、春先に雑木林の中では際立って見えるその花は、やはり清楚で美しい。

桜前線と小学校入学式
 桜前線は、例年5ヶ月をかけて日本列島を縦断してゆくとのことであり、毎年春先になるとその現在地がどの新聞紙上にも掲載されるが、小学校入学直前の頃の自分には、桜前線に関する知識など全くなかった。
 そんな頃、入学祝に買ってもらった本の中に淡紅色に染まった華麗な満開の桜の下で行なわれる入学式の絵があり、自分の入学式の時の風景との差に大きな違和感を持つと共に、何処の学校のものであろうかと羨ましく感じた記憶がある。
 自分が入学した昭和22年の桜の満開が何日であったかは分からないが、気象庁のデータによれば、最近30年間を平均した桜(ソメイヨシノ)の満開の日は、富山では4月12日であるが、東京では4月5日であり、東京以南の地においてはあの絵のような満開の桜の下での入学式も多くあったのであろう。
 桜前線を追う日本列島のたびも夢の一つである。

 

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