「異国の桜、ふるさとの桜、富山の桜」

 
富山国際職藝学院環境職藝科ガーデニング(園芸)コース講師 
渡邉美保子
 

福島で、イギリスで、富山で・・。どこへ行って桜はいつも渡邉さんの側にあります。

 「Prunus 'Shirotae' 。シロタエって日本の品種?」イギリスの英国王立園芸協会ウィズレーガーデンの園芸学校に留学していた頃のことです。今までソメイヨシノしか知らなかった私が異国の地の庭園で見たこともない桜を前にして、なつかしい日本語の響きにとてもほっとして学名のラベルをしみじみと見ては遥かかなたの日本の春に思いをはせていたことを思い出します。
 「おてんとう様はありがてぇ。」そう言っていつも太陽に手を合わせていた祖母。私にとっての祖母の桜は、私のふるさと福島県三春町にある滝桜です。この桜はエドヒガン系の紅枝垂桜で日本三大桜の一つです。毎年桜が咲くと家族で近くに住む祖母を車に乗せて樹齢千年の滝桜を見に行きました。この巨木を前にすると、今年も祖母と桜を見ることができたことのとうれしさと来年も一緒に見ることができるのだろうかという複雑な気持ちになりました。桜は来年も咲いてくれるのだろうかという思いと重なってしまうのです。滝桜は人に見られてきたというより、長い歴史の中でたくさんの人々の人生を見つめ続けてきたのかも知れません。滝桜のまわりをぐるりと一周して眺めるだけの短い時間、毎年祖母に語りかけるのは、「また来年も見に来ようね。」という言葉でした。すると祖母は決まってこう答えるのです。「いやー長生きしてよかった。こんなたいしたものを見せてもらってありがたい。」と。米寿をまっとうし生涯百姓として生きたひとでした。
 この春、新天地富山で私を最初に迎えてくれたのは、学院に一本だけある桜の木でした。初めて見る日本海、初めての北陸の暮らし、知っている人は誰もいない、唯一心がなぐさめられたのはいつものように咲いてくれた桜の花でした。異国の地で日本を思うとき、新天地富山に来てふるさとを思うとき、そこにはいつも桜があるのです。