2002年4月1日

 

「未完成の桜の絵」

女優 左 時枝
 
 

桜の季節になると毎年キャンパスに向かう左さん。桜とともにステキに年を重ねていらっしゃいます。
 もう10年程たったでしょうか、画家のモネが、たまらなく好きになったのは。
 モネの絵を見るのに、パリのオランジェリー美術館に2度も行きました。水蓮の絵に包まれた、あの時の気分は忘れられません。
 花の好きなモネが、桜の花を描くとしたら、どのような絵になるのだろう、と空想するだけで、心の中が熱くなり、その熱い気持ちのままで、私はキャンパスに向かいました。
 何しろ、初めてなので、油絵の具も満足に使いこなせないまま、桜の花を描く画伯に成りきっているのです。まず、空は青く、キャンパス全面に絵の具の色、そのままの色のブルーをぬり込みました。そして、その手前に桜の花を描こう・・・と思ったのですが、描き出したのは、太い木の幹と枝でした。私の印象では、幹の年輪やら重さ、強さ厳しさが木から滲み出ている幹の色は真黒なのです。
 念入りに幹を描いているうちに、その年の桜の時期が終わりました。キャンパスは、青い絵の具の上に真黒な太い幹だけがありました。
 一年が過ぎ、又桜の満開の時に、キャン
パスに、新たな気持ちで向かい、桜の花を描こうとしたのですが、黒い幹が気になり、花にまで、どうしても手が伸びず、やっと太い幹と枝の分かれ目に、一輪の桜の花が描けただけでした。又次の年の桜を待つのです。今年こそと思い、風に吹かれ匂う様な、霧がかった様な桜の花は、又描くことができませんでした。この様な時、私はいつも、モネだったらどんな風に描くのだろうかと、まるで神様に教えを請う様な気持ちでいっぱいになるのです。
 今年も桜の時期になりました。リーゼルの上に青い空と黒い太い幹のキャンパスを乗せて、「さあ、今年こそは・・・・」と未完成の桜の絵を私はジーっと見つめるのですが・・・。
 どうやら、この黒い幹だけの桜の絵は、私と一緒に年を重ねて、生きようとしているのでしょうか・・・。